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飛行船搭乗記

朝8時の中央線は通勤ラッシュ。
こんな電車に乗ることは2年に1度くらいしかない。
とにかくぎゅうぎゅう詰めで新宿に出て、湘南新宿ラインで
埼玉の桶川へ。
ここからタクシーで約15分のところにある、本田飛行場の一角に
飛行船は係留してある。

「時々、空に飛んでる飛行船は、どこから来るのか?
 使わないときは、どうやってしまってあるのか?」

という疑問から始まり、株式会社日本飛行船にお話を聞きに行き、
そしたら「ぜひ乗って下さい」という事になり、7日、乗ってきたのだ。
某PR誌の小さなイラストコラムの仕事である。

事務所で、搭乗に当たっての注意などを聞き、飛行場へ出る。
ドキドキした。僕たちは足が少し速くなっていたかもしれない。
建物を曲がると、全長75mのツエッペリンNTは、100mほど先に
静かに横たわっていた。
写真で見たのと違い、今は広告が何も入ってない、真っ白な船体。
この目でそれを発見した瞬間、
アフリカで最初に野生のゾウを見た時に近いときめきがあった。
その感じをよく出している映画は「ジュラシックパーク」の1。
あの、主人公たちが、最初にブラキオザウルスを見るシーンは
実に巨大な未知との初遭遇の感じが出ている。

普段、見ることの無い大きなものを、この目で見た時の感動。
自分の身体の感覚をはるかに越えた大きなものは、
それだけで何か心を激しく震わせる。
富士山もそうだった。ジンベイザメもそうだった。
大仏も、古い給水塔も、ガスタンクもそうだ。
写真やモニターでは絶体にわからない存在感。異様の美しさ。

まあもったいぶらないでサクサク乗ろう。
飛行船は、先端のところをマストカー(船のマストのような
ポールが立っている特別車)に一点繋いであるだけで、係留してある。
だから、風に任せてそこを中心にコイノボリのように
ユラユラぐるぐると回っている(船体の下には一輪の車輪がついていて
そこが地面に接している)。
つまり使われない時の飛行船は、埼玉の飛行場の一角に、
雨ざらしで、フラフラと繋がれていたのだった。
この、ボクの疑問の答え、その事実にも驚いた。
でもこれが一番効率がいいのだそうだ。
「船を考えて下さい。海に上に浮かべて休ませていますよね」
あ、そうか。
飛行船は空の船だ。1隻、と数える。
1年に1度の点検整備の時は鹿児島のドッグに入るそうだ。
そして、飛行船は、どこかに行くときは、つねにマストカーの
地上部隊も追いかけて行かねばならない。

それで、作業員達が、乗客が動く飛行船にぶつかったりしないように
つねに注意して、合図にしたがってすばやく船の下に移動する。
そして下からタラップでテキパキと船内に乗り込むのだ。

乗り込んでみると、座席は真ん中に通路を挟んで2列、12席。
最前部にパイロットが2人乗っている。トイレもある。
75mの巨体に14人しか乗れないというのが不経済な気もするが、
飛行機の実に15分の1のエネルギーで飛行することができる。
飛行機は「飛ぶ」ということに物凄いエネルギーを使う。
これはヘリウムガスが浮かせてくれるので、エネルギーは
推進する4つのプロペラを動かすことにしか使われない。

飛行機の近代化の歴史は、どんなに金がかかっても、
「より速く、より高く、より多くの乗客貨物を」
だった。
それがコンコルドの挫折(騒音、高額、環境破壊など)などで
頭打ちになり、そしてドイツのツエッペリン社は、実に70年ぶりに
飛行船の開発を再開した。
それがこの世界最新最大の飛行船「ツエッペリンNT」なのだ。

乗り込んで席に着くと、まずはシートベルトを締める。
そしてたちまち離陸。
しかし、飛行機のような加速によるGや、
エレベーターのような浮遊感は、全然無い。
一番近いのは遊園地の観覧車かな。

ふーっと、ごく自然に上がっていく感じ。
船体は飛行機よりずっと 緩やかな傾斜で、上を向いてのぼっていく。
高所恐怖症気味の人もいたが、
「全然恐くないのはなぜ?」
と言っていた。本当に、なんだろうこの不思議な安心感は。
窓は大きく、操縦席との間の壁もなく、一番後ろにはすごく大きな窓があって、
窓際に越しかけられるようになっている。 つまり360°の景観。
驚くべきことに一部窓が開いていて、外気が入ってくる。

そして飛行船はたちまち高度300mに達し、シートベルトを外して
よいとの説明があった。していたのは5分ぐらいか。
そうすると、船内を誰もが自由に歩くことができるようになる。
我々のほとんどは、それからの1時間半、5分として、
落ち着いて席に座っていることはなかったにではないか。

飛行船はのろいものだと思っている人が多いが、
この飛行船は最高時速120km。
このひは平均時速75kmで飛行した。
だから、下の風景は刻々と変わっていく。
それで、乗客はあっちの窓に行ったり、こっちの窓に行ったり、
落ち着いていられないことになるのだ。
300mの高度がたまらない。
高すぎないので、小学校の校庭の子供たちが見える。
(手を振ってるかどうか、まではわからない)
でもきっと誰かが気付いて、それを発見したことを誇らしげに
興奮して、まぶしそうに空を指さしているだろう。

埼玉はまだ田んぼや畑が多く、その水田に、我が飛行船の
影が小さく映っているのが、乗客側としては、何とも誇らしく、珍しい。
流線型の巨大な気球(中にはカーボンファイバーの骨組みが入っている。
この「硬式飛行船」 は、日本では初めて。今までのは風船のように
骨の無いもの)の下についている船体からは
もちろん頭の上の飛行船を見ることはできない。でも
後ろの窓からは巨大な飛行船の「下腹」が後方に向かって
大きく伸びているのを見ることができる。

飛行船は、たちまち大塚、目白にさしかかり、池袋に達した。
サンシャインが下に見える。
ゆっくりと左に曲がっていくと、すぐに目立ったのは東京ドーム。
あの緑は小石川後楽園かな。
え、そしてもう浅草なの?え、どこどこ。
ほんとだ、仲見世に歩いている人、多いね。
あれ、上野?うそ。近いねえ。
江戸時代の人、歩いてたんだもんね。あ、うんこビル!
飛行船のイイところは、船内からプロペラが離れた位置にあるので
船内が静かで、普通の声で十分会話が楽しめることだ。
ヘリコプターではこうはいかない。 ヘッドフォンさえ必要だ。

隅田川にでると、飛行船は隅田川の上空を、河に沿って飛んだ。 なんて優雅。
隅田川にかかる橋の形が、ひとつひとつ違うのを、ゆっくりどんどん楽しんだ。
そして浜松町を越えて御台場へ。フジテレビが見える。
レインボーブリッジを下にながめながら、
空中にしばし停止(ホバリング)。

能登半島沖地震の災害調査では、この飛行船が、さまざまな 場所にホバリングして、
災害情況をつぶさに観察、船内で対策本部が 地図を広げて会議したという。
なにしろ6時間ぐらい連続して飛んでいられるのだ。

飛行船がゆっくり高度を上げる。東京タワーや高層ビルのある都心では、
高度を上げなければならない規制がある。
それでも 斜め下に見える東京タワーはなかなかカワイイ。
なにか地上から見上げるより、クラシックな建造物に見えた。
六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館。
見るものが次々に出てきて、まったく飽きることが無い。
東京なんて狭い地域なんだなあ、と感じた。

目黒の辺りから北上して、渋谷。
ハチ公前で信号を待っている彼らのうち、何人が飛行船に気付いたか。

明治神宮はさすがに広い。新宿御苑も大きいなあ。
皇居の上はもちろん飛行できないが、森の中の皇居の屋根も眺められた。

こうして23区内を一回りして、帰りは行きよりも少し西寄りを飛び、
練馬区上空、光ケ丘団地、そして豊島園を真下に見る。プールが準備中だ。
ああ、もう帰るのか。
ようやく自分の席に戻って少し座る。
めくるめく時間だった。
畑が増えてくる。水田の水が美しい。
やっぱり田園風景はいいな。心がなごむ。
気持ちの中まで、水分が補給されるようだ。
きっヨーロッパの風景の中を飛んだら最高だろうな。
搭乗員によると、京都もすごくいいそうだ。ああ、いいだろうな。

そういうわけで、桶川に戻ってきた。
素晴らしい1時間半だった。
本当に、今こそ飛行船だと思う。

草の生えた飛行船停留場におり、ふり返ると大きな船体が
はやくも懐かしい乗り物に感じている自分がいた。
みんなでタクシーに乗り、桶川まで行くと全員腹ぺこなのに気付いた。
トンカツ屋に入って、まずは生ビール。
「飛行船に、カンパイ」

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by mqusumi | 2007-06-10 14:41
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