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エレベーターの恥ずかしかった話。

出かけるために、仕事場のある8階でエレベーターに乗り込んだ。
ドアが閉まり、俺はエレベーターの中で財布を取り出そうと、
ショルダーバッグをゴソゴソやっていた。
そしたらエレベーターのドアが開いたので、(何階?)と思って顔をあげたら、
同じ階の人が乗り込んできて、少し不思議そうな笑顔をした。

俺は、乗り込んだまま、行き先ボタンを押すのを忘れて、
停ったエレベーターの中に、ずっといたのだった。
思わず無言で苦笑。
相手もそれで全て了解したようだ。
照れ臭い。


でもこれ、初めてではない。
もうかれこれ25年ほど前、俺は千葉の松戸で、
ビルの4階にあるカラオケスナックの壁画を描いたことがある。
その時もやらかした。(…もうあの店も無いだろうな)

ペンキで半日かけて描き終え、店主(30代後半の色男風)に、
「お疲れさまでした、これ、少ないかもしれないけど謝礼です」
とエレベータの前で茶色の封筒をもらった。
ボクは頭を下げて受け取り、エレベーターに乗った。
ドアが閉まって、ボクは行き先ボタンを押し忘れて
もらったばかりの封筒の中をのぞいた。たしか5万円入っていた。
そしたらドアの外で声が聞える。
「どうしたのかしら」
「ボタン押すの忘れてんだよ」
「やだぁ(笑)」
「今押したらここにいるよ」
「やめて(笑)」
店のバイトの女の子と店主の会話だった。
慌てて1階のボタンを押す。
「あ、気がついた(笑)」
「(笑)」
女の子は20歳くらいのすごくカワイイ子で、
描いてる時に飲みもの買ってきてくれたり、ずっと後ろで見てたりして
ちょっとドキドキしたんで、ボタン押すの忘れて、
早くも封筒の中身数えてた自分が、ものすごく恥ずかしかった。
遠ざかってく笑い声が今も忘れられない・・・。


でも実はもっと恥ずかしかったのは、実はその壁画のことだ。
ついでだから書いてしまおう。
カラオケスナックの壁画というのは、実はそのバイトの子の、
お姉さんを通じて、描くことを頼まれたものなのだった。
店の入口ドアの横の、防災用の3mx3mくらいの鉄の扉が、
灰色で暗い感じというので、そこにカラフルな絵を描いてもらえないかというのだ。
俺もまだ若かったから、これはイイ仕事だ、と嬉しくて意気込んだ。
2〜3日かけて下絵を3パターンぐらい描いて、
画材も取りそろえて持っていった。
「カラフル」といわれていたので、トロピカルな絵や、
なんかアールデコっぽい絵、なんかポップアートッぽいシンプルな原画
だった気がする(記憶から抹殺されてる)。

それで、それが描かれたスケッチブックを店主に見せたら、
「う〜ん、どれもいいけど、・・・ねえ、キミ(バイトの子)が
面白いって言ってくれた、昔の俺も知ってるマンガなんだっけ?」
「つる姫?」
「そうそう、つる姫じゃ、つる姫じゃ、あれ描いてもらおうよ」
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…俺、ガックリ。
店の奥から女の子が土田よし子の『つる姫じゃ〜!』の単行本を
持ってきた。俺も懐かしくて、
「あ、懐かしい。面白いですよね」
と言ったが、心は落胆しきっていて、みじめというか、
自分の描いてきた原画が急にみすぼらしくなった。
なんだかえらく勘違いして、肩に力入れてアーティスト気取りで
意気込んでた自分がバカみたいに思え、消え入りたい気持ちだった。

それでもマジメにつる姫の絵を模写して描き終えると、店主に
「さすがプロ!ぜひサイン入れて下さいよ!」
と言われ、
「いや、ボクの絵じゃないので、いいですよ」
と言うのがやっとだった。
笑顔がひきつっているのが、自分でもわかった。
精神も肉体も、実際ひどく疲れていた。

そういう心理状態で、先のエレベーターの1件に繋がるので、
恥ずかしさもひとしおだった、というわけでした。
あとで聞いたら、バイトの子は店主とデキてたそうだ。
死体にムチ打たれる気分だった。
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by mqusumi | 2008-03-16 18:47 | 恥ずかしい話
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